言の葉 #007

彼女には乞食の巧みな指先が自分の着物の虱を一匹のこさず潰すのと似た才能があつて、この才能は彼女の想像力を忽ち駆り立て、彼女が生存の無意味を考へないためのあらゆる資料を、〜つまりそれにもかかわらず彼女がそれを考へないと云ひうる根拠に、彼女の生存を無意味ならしめるあらゆる資料を〜、蒐集させ、このためには多少とも悦子に希望の外見を示して瞞著しかかる事物の悉くを、丹念に潰してまはるのであつた。執達吏のやうにこの想像力は希望をくつがへし、その裏に差押の封印を貼るのであつた。これにまさる情熱はありえない、といふのは、この世の情熱は希望によつてのみ腐食されるからである。

三島由紀夫


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